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お知らせ

社会的価値の意味を掘り下げる

企業と社会との関わり

前回のコラムで、社会的価値の視点について、「三方よし」の精神を取り上げ、既存の商品、既存のサービスを超える新商品、新サービスを企画、開発するために、世間よし、買い手よし、売り手よしの順序・ステップで検討を進めることが社会的価値の視点に立つこと、と提案しました。これで「腹落ち」していただければいいのですが、まだ「腹落ち」できない方もおられると思います。それだけ財務的価値と社会的価値は利益相反的に捉えられ、企業は利益を確保し、納税と雇用を通して社会貢献する、という考えが浸透しています。また、社会的な問題解決は金にならない、利益につながらない、という考えもあるようです。そこで、もう少し、社会的価値の視点に立つことについて説明を続けます。

さて、社会的価値が何を指しているかという問いには、かなり幅広い答えが返ってくると思います。

企業と社会との関わりでいえば、企業の慈善活動・チャリティー(フィランソロピー)や芸術・文化活動の支援活動(メセナ)があります。こうした活動も社会的価値を生みます。
また、企業が社会の中で存在するためには、守るべき企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)があります。代表的には、人権、環境、労働安全衛生、品質などあります。これらの責任を果たすことが重要だ、ということですが、その背景には、企業による環境汚染、劣悪な環境下における低賃金労働、品質問題の隠蔽などの問題が発生したことがあります。さらに、会計情報の改ざん・隠蔽など経営の透明性に関わる問題が発生し、法令・規範の遵守や適切な企業統治を求める観点からコンプライアンス、リクマネジメント、内部統制の整備も企業の社会的責任(CSR)として捉えられています。

上記のうち、フィランソロピー、メセナは、企業の利益還元の一環として本業の周辺分野で行われ、直接、本業の事業活動と関係する活動とはいえません。一方、CSRは、本業の事業活動に直接関係しますが、焦点は、事業活動によって社会にマイナスの影響を及ぼさないことにあります。逆に言えば、新商品や新サービスの企画、開発を通して積極的に社会に貢献する意図については少し乏しいといえます。

※追記:CSRには社会にプラスになる取組みも含まれるという意見もあります。そのように捉えれば、後述のCSVとほとんど違いがなくなります。CSRかCSVか、二者択一的な議論がありますが、私は、あまりそのような議論に意味を感じません。大切なことは、その言葉の意味を明確にすることです。CSRを狭義に捉えれば、社会にマイナスとなる企業活動を抑制することです。CSVは、社会にとってプラスになる商品、サービスを企画、開発し、利潤も同時に得る活動です。そして、企業活動には、CSRもCSVも両方が求められる時代になったと認識しています。

マーケティング3.0とCSV(Creating Shared Value:邦題/共通価値の戦略)

皆さまの中には横文字が嫌いだという方もおられるかもしれません。その方からは、先ほどから、CSR、CSVと似通った言葉が出てきて何が何かわからなくなる、と苦情を頂戴しそうです。しかし、皆さまが関心を持たれる売上や顧客を増やすための理論であるマーケティング理論は、海外から入ってくることが多いのです。その中でも、フィリップ・コトラー氏、マイケル・E・ポーター氏の両氏は双璧といえる学者です。両氏が提唱するマーケティング理論を採用する企業は世界に多くあります。その両氏の最新理論をここで紹介します。両氏とも海外の先生ですので横文字が出てきますがここは辛抱してください。

2010年秋、コトラー教授による「コトラーのマーケティング3.0 ソーシャルメディア時代の新法則(朝日新聞出版)」が発刊されました。それ以前のマーケティング2.0では、「消費者を満足させ、つなぎとめること」を目的に「消費者志向の視点」に立って顧客の声を拾い、商品・サービスを企画、開発することが提唱されていました。そして、マーケティング3.0では、「世界をよりよい場所にすること」を目的に「価値主導の視点」に立って、社会をより良くする価値を提供する商品・サービスを企画、開発すべきだ、と説いています。
※追記:コトラー教授は、現在、マーケティング4.0で自己実現の視点を提唱しています。

2011年6月、マイケル・E・ポーター教授はマーク・R・クラマー氏と共同でハーバード・ビジネス・レビューに「Creating Shared Value:邦題/共通価値の戦略」という論文を発表しました。CSVとは「社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、同時に、経済的価値が創造されるアプローチである」と定義されています。言い換えれば、社会課題を解決する新商品、新サービスを企画、開発し、社会貢献と利益確保を同時に実現することがこれからのマーケティングで重要であると言っています。

このようにマーケティングの分野で世界をリードする両氏が、2010年、2011年と同じような時期に、社会に対する価値、貢献を考えることが、これからのマーケティングにおいて重要であることを提唱されたのです。

社会的価値を重視する背景

両氏の提唱もあって世界の企業の中には、社会に良いことを意識して事業を展開する企業が現れています。その背景にはどのような社会の変化があるのでしょうか。

第一の変化は、企業のブランド価値が問われる時代になったことがあげられます。従来、良い企業とはQCD(品質・価格・納期)に優れた企業でした。また、投資家からはROE(自己資本利益率)も重視されてきました。しかし、地球環境の悪化、貧富の格差や少子高齢化など様々な社会課題の顕在化、企業統治の重視などによって、ESG(環境・社会・統治)が優れている企業かどうかが重要な評価要素になったのです。ニッセイ基礎研究所の研究レポート(2015.3.20)によると、企業ブランドとは、誠実な企業風土にもとづく経営品質の高さとステークホルダーとの信頼関係に基づく社会的評価であり、同時に企業価値の向上促進と毀損防止を図ることであると言われています。そうした経営努力によって形成された企業ブランドがSNSによって拡散し、顧客の購買行動に影響を与える時代になったのです。

第二の変化は、消費者マインドの変化があります。2008年のリーマンショック後、米国の消費者マインドは「より多くより安く買いたい」から「価値あるモノを手に入れたい」に変わったと言われます。人々は、自分だけの経済的価値の追及ではなく、自分が属する地域やコミュニティーをより良くし、絆を深めることに価値を見いだしはじめたという見方です。これは「消費者のソーシャル志向」と呼ばれ、日本では「エシカル(倫理的に正しい=環境保全や社会貢献につながる)消費」という言葉も使われています。具体的には、「似たような商品を買うなら社会貢献につながる方を選び、地球環境や社会に貢献している満足感を得る」といった購買行動をとるのです。

上記のような社会変化によって、売上や顧客の増大を目的にしたマーケティング分野において、社会に良いことをする意味は重要性を増したのです。とはいえ、顧客満足を高めることも社会に良いことにつながります。顧客満足を追求することは、社会に良いことを追求することと同じです。ただ、顧客満足の視点とは言わず、社会的価値の視点といっているのは、新商品、新サービスを企画、開発するにあたって、既存の顧客、既存の商品、既存のサービスといった「既存」の枠を打ち破るうえで「社会にとって良いこと」という切り口に立って考えることが意義があるからだ、と私は考えています。
そして、そのことは、マーケティング分野の双璧ともいえるコトラー、ポーター両氏の理論によって裏打ちされているのです。

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